未分類 特集記事-SPECIAL-

2022.07.09

ヒマラヤトレッキング 高山病対策まとめ

目次

① 高山病とは
② 主な高山病対策一覧
③ 注意事項
④ 高山病チェックシートを活用した停滞・下山検討

関連記事

ヒマラヤトレッキング基本編③ 準備・持ち物・体力

高山病とは

 高山病とは、高地において空気が薄いために陥る酸欠状態である。低酸素状態において数時間で発症し、2,500mでは約20%、3,500mでは約40%の方に何らかの症状が出ると言われている。主な症状は、頭痛、吐き気、嘔吐、眠気(めまい)、食欲不振、顔や手足のむくみ、消化器官の機能低下からくる放屁など。

 高山病が少しでも重症化すると非常に苦しい。頭痛もひどいし、何度も嘔吐するし、食事もとれない。歩くことも出来なくなる。せっかくのヒマラヤ旅行がその時点で下山・撤退。ということも珍しくない。カラパタールのすぐ麓のゴラクシェプという村で、高山病で最後のピークに登れず泣いている人を何度も見ている。高山病の知識が無いためにトレッキング中に高山病が悪化して亡くなる方も毎年いる。
 一方、幸いなことに私がサポートしたお客様で高山病によって登頂出来なかった人は一人もいないので、しっかりと対策をして、人生の夢ともいえるヒマラヤトレッキングを最高の思い出にして頂きたい。

 ちなみに、富士山でも頭痛がするのでヒマラヤには行けないという方がいるが、それは大きな誤解である。富士山は1日で3776mまで高度を上げるのに対して、ヒマラヤでは富士山の高さに上がるまでに4日間もかけて順応を進める。そもそも、富士山の方が圧倒的に高山病リスクが高いのである。ちなみに、最も高山病リスクの高いツアーはマチュピチュの観光ツアーで、飛行機で3,400mのクスコに行くため、富士山と同程度の高山病リスクとなる。

 最後に、5,000m以上の標高を何度もツアーガイドとして歩いている私の経験から伝えると、低酸素状態に弱い人と強い人がいるのは間違いないと思うが、高山病は誰でもランダムに起こりうる。弱いと言っていた人がなんともないのに、強いと思っている人が真っ先に高山病にあることもあるし、エベレストにも登頂している私が一番最初に頭痛を感じることもある。

 当たり前と言われそうだが、高山病に強いと思っていても、誰しも高山病のリスクを抱えており、どの対策をやったから大丈夫ということはない。出来る限り全ての対策を行って、少しでも高山病の確率を下げることが大切である。キリマンジャロでも問題なかったから大丈夫!など言わず、紹介するすべての対策を徹底して頂きたい。

< 高山病は悪化すると死に至ることもある>

肺水腫・・・呼吸困難、せき、歩行困難、胸部圧迫感、微熱、チアノーゼ
脳浮腫・・・運動失調、見当識障害、錯乱、昏睡

主な高山病対策

① 高度順化:空気の薄い状況に身体を適用させながら高度を上げる。
 ・滞在地(睡眠地点)の高度上昇を1日500m程度に抑える
 ・滞在地の高度上昇1,000毎に1日の停滞日を設ける。
 ・滞在地に到着した後は、絶対にすぐ横になったり寝たりせず、出来る限り散歩に行く。

② 歩行速度のコントロール:歩行時に身体の酸素量を安定させる
・ 呼吸が上がらない程度の運動を維持する
・ 呼吸が乱れた場合は足を止め、呼吸が落ち着くまで待つ
・ 特に5,000mを超えた地点での登りでは、一歩ごとに複数回の呼吸をする
・ 絶対にグループのペースに合わせず、マイペースを維持すること。

 これが出来ていない方が非常に多い。呼吸が乱れてはいけない。隣の方と楽しくおしゃべりが楽しめるペースで歩かなければならない。当然、汗もほとんどかかない。汗がしたたるほどかいている場合は、完全に間違っている。

③ 水分補給:身体や脳に酸素を運ぶ血液の粘度が上がらないようにする
・ 3,000mでは3L、4,000m以上では4Lを目安に飲む。
(朝夕食で各1L、行動中に1〜2L)

④ 呼吸法:低気圧状態でもより多くの空気を取り込むための呼吸
・ 「はぁはぁ」ではなく、ろうそくの火を消すように「ふぅー!」と吐く。
・ 吸う時は鼻と口から同時に、肺が膨らむことを意識して。
・ロッジ到着後や休憩中は意識的に深い呼吸をして血中酸素濃度が下がらないようにする。

 傾斜が緩いところはゆっくりとした呼吸で良いが、急なところは低酸素になりやすいので、目一杯伸ばした手に持ったろうそくの火が消えるくらい「ふぅっ!」と吐く。吐くというより吹くに近い。深呼吸とは全く違うので注意。地上で5回ほど繰り返すと頭が過呼吸でフワッとするくらいの呼吸をする。

⑤ 質の高い睡眠:睡眠不足は高山病の原因となる
・寝る前や夕食後にミルクや糖質を取る
・ヒーリングミュージックなどを聞きながら眠る

⑥ ダイアモクス、頭痛薬
 ダイアモクスは賛否あるが、少なくとも私がお連れするお客様や登山隊メンバーで実験をした結果からすると、ダイアモクスの有無によって明確に血中酸素濃度に差が出る。出来れば薬は飲みたくないという気持ちは分かるが、それは人生の夢であるトレッキングツアーを台無しにするリスクと天秤にかけるほどのものか、しっかりと考えて頂きたい。ただし、普段から薬を飲んでいる方は医者に飲み合わせについて確認すること。

・ 基本的にダイアモックス は予防薬なので、“症状が一切ない状態から飲みはじめる”こと。
・副作用として、指先にチリチリとした痺れ、利尿作用などがあるが、高山病リスクの方がはるかに高いので気にする必要はない。
・3、000mを越える日の朝から、朝食と夕食の際に0.5錠飲む。
・血中酸素濃度の数値が目標値を下回る場合は1錠飲む。
・同じ標高に滞在する3日目まで飲み続ける。
・高山病の頭痛がある時は、バファリン、イブ、ロキソニンなどの頭痛薬を飲む。(ダイアモクスとの併用は問題ない)

その他注意事項・アドバイス

・アルコールは呼吸が抑制されてしまうので高地での摂取は注意。3,400m以上ではアルコールの摂取量を抑えること。

・コーヒーは飲んでも問題ない。

・睡眠薬は厳禁。通常、高所では夜に呼吸が浅くなることで目が覚める。そこで大きく呼吸をして血中酸素濃度を高めることが出来るが、睡眠薬を飲んでいると低酸素状態でも目が覚めないので危険である。

・低酸素室は、数日滞在し続けるのであれば良いが、数時間入ったくらいでは高度順応としてはほとんど効果がない。それならばヒマラヤの滞在日数を1日増やして順応日を作った方がはるかに効果がある。ただし、低酸素状態での呼吸法や歩行法を練習する目的であれば意味がある。その場合は富士山なども良い。

・高度順応は7,000m以上の順応であっても2週間程度で低下し、約2か月で全く元の状態に戻ると言われている。高地に住むシェルパ族は低酸素に強いと思われがちだが、日本で数か月働いた後にヒマラヤに戻ると、真っ先にシェルパさんが高山病にあるということもある。

高山病診断

・高度順化チェックシートは私がツアーの際に活用している診断シートであり、高所低酸素血症研究会のデータとツアーでの実績をもとに停滞・下山を検討するためのツールである。

・表については高所低酸素血症研究会によるエベレスト街道での統計から得られた数値であるが、高山病はSpO2の数値よりも個人の自覚症状が重視されるので参考値として見ること。
*5,200mの水準はWondersツアー参加者におけるおおよその数字

標高2,700m3,500m3,900m4,400m4,800m5,200m
平均SpO291±2.686±4.585±5.283±4.879±5.673±5.0
危険値<85.9<76.8<74.1<73.1<67.5<62.0
*60歳以上では平均値よりも血中酸素濃度が2~3%低くなりがち。

関連記事

ヒマラヤトレッキング基本編③ 準備・持ち物・体力

未分類一覧へ