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ヒマラヤトレッキング / 高山病対策まとめ

ヒマラヤトレッキング / 高山病対策まとめ


目次

① 高山病とは
② 高山病のウソ・ホント
③ 高山病対策一覧
④ 注意事項
⑤ SpO2参考値と高山病チェックシート



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ヒマラヤトレッキング基本編③ 準備・持ち物・体力



高山病とは

 高山病とは、高地において空気が薄いために陥る酸欠状態です。低酸素状態において数時間で発症し、平地から1日で標高を上げた場合、2,500mでは約20%、3,500mでは約40%の方に何らかの症状が出ると言われています。主な初期症状は、食欲不振、頭痛、吐き気(嘔吐)、眠気(めまい)、顔や手足のむくみなど。悪化してしまうと、頭痛が強くなり、嘔吐を繰り返し、食事もとれず、歩くことも出来なくなります。さらに重症化すると、肺水腫や脳浮腫といった重篤な状態となり、死に至ることもあります。実際、標高の高いエベレスト街道のロブチェ(4,910m)やゴラクシェプ(5,140m)という村では、毎日、高山病患者を搬送するヘリが飛び交っており、知識がないためにトレッキング中に高山病が悪化して亡くなってしまう方も毎年いらっしゃいます。


肺水腫・・・呼吸困難、せき、歩行困難、胸部圧迫感、微熱、チアノーゼ
脳浮腫・・・運動失調、見当識障害、錯乱、昏睡

それにも関わらず、現地ガイドで高山病の知識を持っている方は稀です。お医者様が書いたインターネットの記事も、実体験に基づく内容は非常に少ないと感じています。私自身も高山病の専門家というわけではありませんが、少なくとも5,000m以上のトレッキングや8,000m峰の登山隊のご案内をする中で、高山病によって目標とするピークに到達できなかったという方はほとんどいません。

今回は私が実施している高山病対策を紹介させて頂きますので、ヒマラヤに行く方はしっかりと対策をして、人生の夢ともいえるヒマラヤトレッキングを最高の思い出にして頂ければと思います。

高山病のウソ・ホント

◾️日本の山でも高山病になるのでヒマラヤは無理
嘘です。富士山は1日で3,776mまで高度を上げるのに対して、ヒマラヤでは富士山の高さに上がるまでに4日間もかけて順応を進めます。そもそも、富士山の方が圧倒的に高山病リスクが高いのです。ちなみに、マチュピチュの観光ツアーなどは、飛行機で3,400mのクスコに行くため、富士山以上の圧倒的な高山病リスクとなります。それに比べるとヒマラヤの高山病リスクは決して高くありませんのでご安心ください。

◾️高山病は体質によって決まる
嘘です。確かに体質の影響は少なくありませんが、体力、体調、高度順化、呼吸法の方がはるかに影響が大きいです。5,000m以上を目指すツアーガイドを何度もしている中で、高山病に強いと言っている人が真っ先に高山病になることも少なくありません。

◾️ヒマラヤ出身のシェルパさんは高山病にならない
嘘です。日本で半年働いた後、最初のツアーなどではシェルパさんも普通に高山病になります。シェルパさんにとっても高度順化が重要です。

◾️国内で事前に高山に登った方が良い
半分嘘です。出発前1週間以内に富士山頂でテント泊をするなら順応効果も期待されますが、数時間高所に滞在してところで順応効果は期待できません。現地での滞在日数を1日増やして、順応日を増やした方がはるかに効果があります。一方、富士登山を通じて、高所での呼吸法や歩行ペースを学んだり、夏山で心肺機能を鍛えるということには価値があります。

◾️低酸素室トレーニングをした方が良い
半分嘘です。上記と同じで、出発直前に4,000m以上を想定した低酸素室内で宿泊するなどすれば効果がありますが、数時間のトレーニングでは順応効果はありません。ただし、低酸素状態での呼吸法を学ぶことには意味があります。この場合はトレーナーの指導がなければ意味がありません。

◾️高山病になったら下山するしかない
嘘です。軽度な高山病であれば呼吸法で改善できます。パルスオキシメーターを付けて深呼吸をすると数値が改善しますが、その状態を1〜2時間維持すると症状が改善するケースが多いです。

高山病対策一覧

高度順化:空気の薄い状況に身体を適用させながら高度を上げる。
 ・滞在地(睡眠地点)の高度上昇を1日500m程度に抑える
 ・滞在地の高度上昇1,000m毎に1日の停滞日を設ける。
 ・滞在地に到着した後は、絶対に横になったり寝たりしないこと。出来る限り散歩に行く。

高山病になったという方の話を聞くと、ロッジ到着後に疲れて横になったという方が多いです。到着後は散歩をしたり、ダイニングで会話をするなどして高度順化を進めなければなりません。

歩行速度のコントロール:歩行時に身体の酸素量を安定させる
・ 呼吸が上がらない程度の運動を維持する
・ 呼吸が乱れた場合は足を止め、呼吸が落ち着くまで待つ
・ 特に5,000mを超えた地点での登りでは、一歩ごとに複数回の呼吸をする
・ 絶対にグループのペースに合わせず、マイペースを維持すること。

 これが出来ていない方が非常に多いです。呼吸が乱れるということは、低酸素状態を維持していること。おしゃべりが楽しめるペースで歩かなければならないので、当然、汗もほとんどかきません。汗がしたたる場合は、完全にペースオーバーで、高山病リスクの高い登り方をしているということです。

水分補給:身体や脳に酸素を運ぶ血液の粘度が上がらないようにする
・ 3,000mでは必ず1日に3L以上の水を飲む。(朝夕食の水分補給を含むので意識すれば無理なく飲めます)

呼吸法:低気圧状態でより多くの空気を取り込むための呼吸
・ 「はぁはぁ」ではなく、ろうそくの火を消すように「ふぅー!」と吐く。
・ 吸う時は鼻と口から同時に、肺が膨らむことを意識する。
・ロッジ到着後や休憩中は意識的に深い呼吸をして血中酸素濃度(SPO2)が下がらないようにする。

 傾斜が緩いところはゆっくりとした呼吸で良いが、急なところは低酸素になりやすいので、目一杯伸ばした手に持ったろうそくの火が消えるくらい「ふぅっ!」と吐きます。吐くというより吹くに近い。深呼吸やヨガの呼吸とは全く違うので注意してください。地上で5回ほど繰り返すと頭が過呼吸でフワッとするくらいの呼吸をしましょう。
また、ロッジで頭痛を感じた際などは、パルスオキシメーターを付けて深い呼吸によってSPO2の数値を改善させます。その状態を1〜2時間続ければ頭痛が治まることが多いです。

質の高い睡眠:睡眠不足は高山病の原因となる
・耳栓とアイマスクをつける
・寝る前や夕食後にミルクや糖質を取る
・ヒーリングミュージックなどを聞きながら眠る

夜は水分補給やダイアモクスによってどうしてもトイレが回数が増えます。一晩で3〜4回は当たり前。そのため、睡眠の質を高める努力が必要です。最も重要なことは耳栓アイマスク。特に、グループツアーでは2名1室が基本となるので、隣人の音やライトで眠り妨害されないようしっかりと対策をしてください。

ダイアモクス、頭痛薬
 ダイアモクスは賛否ありますが、少なくとも私が過去のトレッキングツアーや登山隊の経験からすると、ダイアモクスの有無によって血中酸素濃度には明確な差があります。出来れば薬は飲みたくないという気持ちは分かりますが、人生の夢であるトレッキングツアーを台無しにするリスクと天秤にかけるほどのものか、しっかりと考えてください。もちろん、最後はお客様の自己判断となります。
普段から薬を飲んでいる方はかかりつけのお医者様に飲み合わせについて事前確認すること。

・ 基本的にダイアモックス は予防薬なので、“症状が一切ない状態から飲みはじめる”こと。
・副作用として、指先にチリチリとした痺れ、利尿作用などがあるが、高山病リスクの方がはるかに高いので、薬が効いているんだなくらいに考えましょう。
・3,000mを越える日の朝から、朝食と夕食の際に0.5錠飲むのが基本。
・血中酸素濃度の数値が目標値を下回る場合は1錠飲む。
・同じ標高に滞在する3日目まで、もしくは標高を下げる前日の夜まで飲み続ける。
・高山病の頭痛がある時は、バファリン、イブ、ロキソニンなどの頭痛薬を飲む。



その他注意事項・アドバイス

・アルコールは呼吸が抑制されてしまうので高地での摂取は注意。3,400m以上ではアルコールの摂取量を抑えること。夕方3時頃にロッジに到着してビールを誰かとシェアする程度は問題ないかと思います。

・睡眠薬は厳禁。通常、高所では夜に呼吸が浅くなることで目が覚めることがあります。その時、大きく呼吸をして血中酸素濃度を高めることが出来ますが、睡眠薬を飲んでいると低酸素状態でも目が覚めないので非常に危険です。



高山病診断

・パルスオキシメーターを持っているが、その数値がどうなったら悪いのか。ということをご存知ない方が多いので、高所低酸素血症研究会のデータと過去のツアーの実績をもとに作成した参考数値を提示します。高山病はSpO2の数値よりも個人の自覚症状が重視されるのであくまでも参考値として見ること。利用の際はあくまでも自己責任でお願いします。

標高2,700m3,500m3,900m4,400m4,800m5,200m
平均SpO291±2.686±4.585±5.283±4.879±5.673±5.0
危険値<85.9<76.8<74.1<73.1<67.5<62.0

・高度順化チェックシートは、一般的なAMS診断の内容を私がツアーの経験に基づいてカスタマイズしたもので、停滞・下山を検討するためのツールです。



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